僕が24歳の頃の話の続き・・・
とてもにこやかな店主の女性が、ボンジュール!と明るく挨拶をくれた。
ボンジュールと返すとウインクしてくれた。
もうウインクには少し慣れたけど、去年初めてフランスに来たとき、
女性にウインクをされる度にドキドキして、どうしたらいいんだろうとうろたえていた。
日本ではない習慣なので、前向きな僕は、もしかしたら僕のことを・・・などと考えていつもドキドキしていた。
今でも普通の挨拶なんだとわかっていても、まだ少しドキドキする。
そしてキラキラ輝いているジュエリーケースを覗き込むと、星の形の綺麗なブローチ1点に眼が吸い込まれた。
ケースの中には100点以上のジュエリーが入っているのに不思議な感じがした。
白い透明の石が詰まっていて、朝日にあたりキラキラと光を放つ星のブローチ。
店主が取り出して見せてくれた。
フランス語でペラペラと説明してくれるが、さっぱりわからない・・
電卓を取り出し、セ・コンビアン?と価格をとりあえず聞く。
そして電卓に価格を打ってくれている間に手に取ると、結構ずしりと重みがある。
後ろを見ると金のようだし、もしこれがダイヤモンドならもちろん手が届かない。
そして電卓を返してもらい確認すると2200フラン。
日本円で計算すると、22円を掛ければ約5万円になる。
ダイヤモンドだとしたら値打ちだし、そうでなければ高いという微妙な価格だ。
そう考えながらも手のひらでキラキラと光を放つ。
ダイアモンドですか?と英語で聞くと、ノンと言った後にまたペラペラとフランス語で説明する。
とにかくダイヤではないということだ。
現代物ならジルコンや合成石。
アンティークなのでガラスかな・・・
予算もあまりないし、キラキラと綺麗で気に入ったけど、
リアルストーンでないのなら高いので、少し考えようと思い、メルシーと言って星を返す。
すると店主はまたフランス語でペラペラと話して、僕の電卓を取り、数字を打ち込む。
値切ってもいないのに、安くするからどうだという感じで僕に見せる。
数字を見ると1500フラン。一気に3万円ぐらいまで下がった。
あまりの速い展開になんて返せばいいのかもわからず、
電卓を見ているとまた電卓を取り上げ、これでどうだ!という感じでまた僕に見せる。
見ると1000フランになっている。
僕はこの間、ボンジュール、セ・コンビアン、メルシーしか言っていないのに、わけがわからないまま、半額以下に下がっていた。
どうにかして売りつけたいのか、僕がとても好きになっているのを見越して安くしているのかどうかわからないけど、
店主が必死になっていることは間違いないし、こうしている間にも、
もうこれ以上は絶対無理だから!みたいなゼスチャーで何か言っている。
値切ってもいないのにおかしくなり、笑うと、またにこっと笑顔でウインクをしてきた。
オッケーと言いお金を出すとメルシー・オバーと良いながらホッペをくっつけてきた。
ウインクは慣れたけどホッペは初めてされた・・・
真っ赤になりながら何年頃の物なのかを手帳に書きながら聞くとc1830と書いてくれた。
とても古いものだ。
ついでに石も書きながら聞くと、フレンチ何とかと書いてくれた。
もしかしたら本で見たことのある、フレンチペーストの事かもしれない・・・
昔の模造宝石だ。
赤い顔をしながらメルシーと言い星を受け取ると、またウインクしてまた来てねみたいな事を言われた。
年齢は30代ぐらいだろうか。
僕とそんなに変わらないのに、一人で朝早くから蚤の市に出店している。
ジュエリーとガラス製品小物だけを扱っているから女性でも一人で出せるのか。
だから大きいテントやパラソルなどはなく、
太陽が当たりガラスもジュエリーもキラキラ光りちょうどいいのかも。
雨が降れば大変だけど・・・
そんなことを考えながら歩き出すと、道と道の間のスペースに大きな箱を持った男性が立っている。
僕と眼が合うとニコッと笑いながら右手のハンドルを回した。
オルゴールだ!
良く見ると民族衣装を着ている大道芸人だった。
クラシックな曲が流れ出しとても華やかな雰囲気になる。
母を訪ねて三千里のペッピーノ一座だったかな?
そんな感じでとても楽しいオルゴール。
僕が最初に聴いて立ち止まっていたけど周りを見渡せばもう30人程集まっている。
みんな笑顔で喜んでいる。
クリニャンクールではない素敵な大道芸人。
蚤の市にピッタリだ!
骨董好きが世界中から集まり、毎週開かれているヴァンブの骨董市。
きっと大昔からこんな雰囲気で沢山の人が楽しんできたのだろう。
歴史とパリの素敵な風、太陽、音楽を浴びながら素敵な出会いを求めて歩き出す・・・
続く