僕が28歳の頃の話・・・
今日はイギリス、アーデングレイのフェアーに出かける。
以前にイギリス、ニューアークのビックフェアに出かけたが、広すぎてバテバテになり、
ベンチでへたり込んでいると、ロンドンの業者に、ここは広すぎるが、
アーデングレイのフェアなら上質で、丁度いい規模だよ、と教えてくれた。
聞いてから半年でようやく行けることになった。
ロンドンから列車で、牛や馬、羊などを眺めながら1時間半程で到着した。
小高い丘や、森など綺麗な緑色の木々が迎えてくれた。
とても素敵な緑の街。
アンティークフェアがなければ来ることのない場所。
アンティークはとても素敵な出会いを演出してくれる。
駅を出るともちろん来るのは初めてで場所はわからないので、いつものようにみんなについて行く。
50人ぐらいはこの駅で降りたがほとんどがフェアに向かう人だろう。
ほとんど同じ方向にゾロゾロと歩く。
これからの出会いにワクワクしているのが伝わってくるぐらい、みんなの足が軽快にスキップをしているようだ。
これがミュージカル映画なら軽快な音楽が流れ、タップでもするんだろうな・・・
そう考えていたら会館が見えてきた。
入り口には沢山の人が並んでいる。
5分程かかり中に入ると、会館の手前にオープンマーケットのブースが見えてきた。
そこの一番手前の店に、とても愛くるしい表情をした少女の絵画が目に入る。
眺めていると60代ぐらいの男性店主が。これはビクトリア時代の油絵だよ、と説明してくれた。
夕暮れか朝日かわからないが、太陽が少女の顔に陰影をつけていてとても魅力的だ。
価格は150ポンド。約3万円か・・・
来たばかりだし、荷物にもなるので一周りして、気になればまた戻ってきます、と伝えて会館の中に入って行く。
中に入ると沢山の人が並んでいた割には人が少ない気がする・・・
会館が広すぎるからかな・・・
家具、食器、アクセサリーの店が沢山並んでいて嬉しくなりながら1つ1つ見て周る。
でも目に飛び込んでくるような出会いがなかなか無い。
1時間程かけて、ほぼ1周しかけたところに、古いテディベアが並んでいる店が目に入った。
後ろにとても大きな丸太にクマが上っている置物があり、
その前の台にテディベアとビスクドールなどが、少しだけ飾られている。
とても印象的なディスプレイだ。
50代ぐらいの、細身の女性店主がハローと声をかけてきた。
挨拶を交わしていると、大の中央に凄く可愛いお人形が寝そべっている。
丸い顔に、ブルーの大きな瞳、弧を描く綺麗な眉、
クリーム色の生地に綺麗な刺繍をしたドレスを着た可愛い人形。
とても可愛いですね、と言うと、ベリーベリーラブリーF・Gですよ!と店主は興奮気味に話した。
F・Gとはどんな人形かは知らないが、ほんとうに可愛い。
価格を聞くと1000ポンド。
ドイツの子しか買ったことがないので、その高さにびっくりしていると、
この子は少しキズがあるからこの価格だけど、完品なら3000ポンド以上はするのよ!と説明する。
どこにキズがあるんですか?と聞くと、ペンライトを取り出し、カツラを外して中からライトを照らす。
ここに少しヘアラインがあるのよ、と言うが全く見えない・・・
わからないですね、と言うと、ほんとに小さなラインだから、
明るい所でないと見えないかもしれないわ、と店主は大きなゼスチャーで話す。
20万か・・・日本語でつぶやきながらF・Gを手に取る。
何度見ても可愛く綺麗な顔をしている。
どこかで見たような顔に思えてきた・・・
あっ、さっき入り口でみた絵画の少女になんとなく似ている!
店主にそれを説明すると、それは偶然ね、両方持つととても素敵よ!と言われた。
もう一度絵を見て来て良いですか?と言うと、
もちろん!もしほんとに似ていたらもう少し安くしてあげるから、と言ってくれた。
戻るまでキープしてあげるからと言われて、F・Gを後にして入り口付近を目指し足早に向かう。
もし売れていたらどうしよう・・・
焦りがでてきたけど、冷静に考えればお人形に1000ポンドも出したことが無くて、
買わないつもりだったのに、その気になっている・・
お金もそんなに余裕がない。
でもこんなに良いと思った人形は初めてだ。
とにかく絵を見て考えよう。
広い会場なのでようやくたどり着いた。
するとまだ2時なのにアウトサイドの店は片付け始めていた。
一番外の店を探す。
絵画を20点ぐらい壁にかけていた店だが見当たらない・・
ガッカリとしながら良く見ると店主らしい方が箱を運んでいた。
声をかけて、少女の絵画は売れましたか?と聞くと、
車に運んだけどもってこようか?と言ってくれた。
さっき雨が降ってきたから急いで片付けたんだよ、と説明する。
中にいると雨が降っていたとは知らなかった。
少し待っていると店主がパッキンに梱包された絵を手に戻ってきた。
パッキンをひらくと、愛くるしい少女が出てきた。
そして、瓜二つではないが、やはりF・Gに似ていた。
店主のおじさんは、せっかく戻ってきてくれたから、100ポンドにしてあげるよ、と言ってくれた。
イギリスでそんな値引きをされたことがないので、びっくりした。
パリなら平気で半額以下になるが、イギリスでは1割か、最高でも2割が精一杯なのに・・
やはり縁があったんだと嬉しくなり、頂きますと言い、
そのままパッキンで梱包してもらいサンキューと大きい声で店主と別れた。
そして急いでF・Gの所に戻る。
もうこれは思い切って買うしかない!気合を入れて足早に向かう。
大きな熊が目印の店に戻ると、店主がいない・・・
F・Gもよけてくれているのだと思うがそこにはない。
隣の陶器の店の店主が、ここのマリーはじっとしていられない性格で、
すぐにどこかに買い物に行くのよ・・困ったもんだわ・・・と話してくれた。
15分ぐらい待っていると、マリーが僕の姿を見かけて走って戻ってきた。
ソーリー、こんなに早く戻るとは思ってなかったのよ・・と謝るが、
手に持っている額縁を見て、私にも見せて!と笑顔で話す。
そして梱包をほどくと、オーベリースィート!と大きな声を出す。
F・Gにもそっくりよ!と喜んでいる。
こんなことがあるなんてね、と興奮気味に話すと、800ポンドでいいわよ!と言ってくれた。
絵とトータルで250ポンドも安くなった・・
絵が無料になり、さらにF・Gが安くなり交通費も出た。
やっぱり予算がない僕の為にアンティーク達が頑張って引き合わせてくれたんだ!
と心の中で思った。
ホントは店主が頑張ってくれたのだが・・
とにかく嬉しくなり、梱包されたF・Gと絵画を手にアーデングレイを後にする。
ありがとう、ニューアークでアーデングレイを教えてくれたイギリス紳士。
あなたの言うように上質で良い出会いがありました・・と心の中でつぶやきながら、緑の森を駆け抜ける・・
続く。