2010年5月の買い付け・・・
昨日のポートベローが終わり、今日はいよいよドールショーだ。
去年の11月に突然中止になり、20年以上続いていたドールショーが終わりを告げ、
新たにオークション会社が主催となりスタートしたドールショー。
期待と不安が入り混じりながら、タクシーに乗り込む。
人形の館のクレアさんは入院されて出店しないし、
今までのドールショーの主催者ブレンダはプライドが高く今回のショーには出ないと夕べに聞いた・・・
いったいどんなショーになるんだろう・・・
タウンホールに着くと、以前と同じように沢山の車が横つけにして、人形屋さんが荷物を降ろしている。
仲良しのグレンダが旦那さんと荷物を降ろしているのが見えると、大きい声でグッドモーニングと挨拶をする。
いつもの光景に心が躍り、期待感が膨らむ。
入り口で入場の手続きをすると1階の中が見えるが、
みんなが荷物を運んでいるのにガラガラになっている・・・
入り口の係員が呆然としている僕に、ファーストフロアへどうぞ!と声をかけてくれた。
ロンドンでは1階がグランドフロアーで2階がファーストフロアという。
僕が聞き返して、ここには人形屋さんは出ないんですか?と
もう一度確認すると、アイムソーリー・・・両手を広げる・・
そんな僕の横をグレンダが荷物をエレベーターに運びながら、
ファーストフロアーだけなのよ・・と残念そうに教えてくれる・・・
今までのドールショーは1階のメインホールと入り口、
地下のホール、バザーのような、可愛らしいおばあさん達が仕切る小部屋と人形達が並んでいた・・・
二階は逆に行ったことがない・・・
エレベーターで二階に行くとメインホールの三分の一ぐらいの小さいホールで顔なじみのメンバーが集っていた。
少なくても80店以上は出ていたのに、25店舗で精一杯の規模になっていた・・・
今までは全部見て歩くだけでも40分はかかっていたのが、今は10分もかからない広さだ・・・
ドールショーで毎回お人形の格好をして楽しみながら演出していたクレアさんが、体調を崩したのとほぼ同時に、
ドールショーは突然終わりを告げ、その時に僕は初めて人形の館に招かれた。
象徴的な人の時代が終わるとそのイベントそのものが終わりを告げる。
日本のアンティークフェアでも同じことがあった・・・
お人形を観に来たのにショックと淋しさ、今までの思い出が頭を巡る。
そんな僕に後ろから声をかけてくた男性がいた。
デービッドだ。
カムデンパッセージでロンドンで一番大きくて素敵な人形店を開いていて、
優しくてロンドン紳士らしく、僕は憧れていた。
奥さんをとても愛していて、いつも写真を撮っていたり、その写真を店に飾ったりしていた。
店の名前はイエスタデイ・チャイルド。
今はその場所にはお土産屋さんのような店に変わっている。
デービッドとはドールショーとドールオークションでしか今は会えない。
デービッドはいたんだ!
少し落ち込んでいた心が和らいだ。
気を取り直して見ようとするが、なんせ少ないのですぐに見渡せてお終いになる。
そんな僕を今度はサラが声をかけてくれた。
微笑みながらサラは、これでもみんな良い業者が集まっているし、
せっかくだから楽しんでね♪と明るく話してくれた。
僕も笑みを返すと、一番端のスペースのテーブルが空いているのが目に入る。
サラに、ここは誰か来るの?と聞くと、ヒゲのお父さんと娘親子よ、と教えてくれた。
それで僕はすぐに思い出した。
地方から出てきて自慢のコレクションを持ってくる親子だ。
回っても空しくなるのでここで来るのを待とう。
毎回大きなお人形を2体は持ってきて、珍しい子も持ってくるので必ず何かご縁がある人だから。
すると大きな台車をひきながら親子が現れた。
グッドモーニング!息を切らしながら挨拶をしてきた。
大きい子はいますか?と尋ねると後は娘に運ばせるから君に先に見せてあげるよ、と言ってくれた。
ハワイユーなどと良いながら、箱から次々とお人形を出しては僕に渡してくれる。
大きい子と言ってるのに、ものすごく小さい子達が次々と出てきた。
パッキンを開けていくとみんな可愛い子ばかりだ。
手のひらに乗るサイズの子がずらりと並ぶとなんとも可愛い。
見ているうちにどんどん可愛くなってきて価格を聞きもらうことにした。
その様子をみんなが観にきた。
みんな僕が選んだ小さい子をみてベリーキュート、ラブリーなどと言い手に取る。
このジャパンボーイが決めたから大事に触ってね、とヒゲお父さんが声をかける。
みんな仲良し業者だから笑顔で話をしながら人形達を見る。
小さい子が入っていた箱から最後に出てきたのは、
見たことがないとても小さなシャーリーテンプルだ。
状態もとてもいいのでそれも僕のカバンの横の床においていく。
とても小さくなったドールショーで、いつも大きい子ばかり探している僕も小さい子を選んでいる。
駄洒落のようだなと落ちをつけるとおかしくなってきた。
心が前向きになり明るくなってきた。
どんなことでも始まりがあり、終わりが来る。
これはどうしようもないことだし、自然の事。
今までの素敵な思い出と共に僕の心の中でいつまでも、
小部屋のバザーのようなおばあちゃん連中は楽しく店を開いているし、ボスのようなおばあちゃんもキビキビしている。
カフェで自慢の人形を見せ合う婦人達の乙女のような姿。
その一瞬を共に過ごせたことだけでもものすごく幸運で幸せだ。
小さい子をカバンに入れてこれまた小さくなったカフェに寄りコーヒーとハンドメイドのレモンケーキを食べる。
そして今回は間に合わなかったが次回に分けていただく、
サンドラにもらったとても可愛いゴーティエの写真をカバンから出し見ながらコーヒーを飲む。
すると正面に座っていた婦人が、ベーリーキュート!と声を出したので
見ると、その写真がプリンタで印刷してある物だから、透けて向こうからも見えていたのだ。
見せてと言うので渡したら、オーマイガーと言いながら写真にキスをした。
僕がコレクションの写真を持ち歩き、それを眺めていると思っているんだ。
日本では間違いなく気持ち悪がられると思う。
最後に心も身体も温かくなった。
サンキューと言って席を立ち、小さなドールショーを後にする。
さようなら。素敵な素敵なドールショー・・・
続く