僕が23才のとき、初めてのパリへの買い付け 終編
部屋に戻り、すぐにアキラに電話をかける。
今日はストで大変だったんですよ!
なぜ知らせてくれなかったんですか!?
するとアキラは、パリでは日本とは違い、予告無しにストライキをするんですよ・・・
ほんとかどうかわからないけど、そう言われたら何にも言えない・・・
とにかく無事でなによりです。
その通りなので、もう何も言わずにサヨナラを言い電話を切った。
落ち着きを取り戻すと、お腹の虫が鳴り出した。
明日はストが解消されていれば、蚤の市もあるし、
腹ごしらえをしておかないと、と筋肉痛の重たい足をあげ、外へとくりだした。
その日の夜は、深い眠りにすぐに入り、朝の目ざまし時計の音が、すぐに鳴ったような気がしながら、目が覚めた。
簡単な朝食を取り、ホテルを出て地下鉄の駅へと向かう。
入り口は開いていて、昨日の騒動は遥か昔のことのように感じるぐらい正常に機能している。
今日は記念すべき、初めての買い付けの日だ!
気合が入ってくる。
高校野球の時の打席に入る前の緊張感のような、ドキドキワクワク感に似ている。
モントレイユの駅に着くと、みんなゾロゾロと同じ方向に歩き出す。
みんな市に向かうようなので、迷わなくていい。
するとすぐに沢山の店が見えてきた。
新しい衣料品、古着、ガラクタが所狭しと並んでいる・・
広い1本の道に、見えなくなるところまでずっと店が続いている。
これは凄い!
アンティークの店は全部見てまわるぞ!と心に誓う。
10件目ぐらいの店でかなり古そうで、形も良い置時計を見つけた。
価格を聞くと2200フラン。
1フラン22円として4万円代か・・・
予算が合わないので、時計を置き行こうとすると、
店主が早口のフランス語で何か言っている。
そして僕の電卓を取ると、1000フランと押してどうだと言ってきた。
何も言ってないのに半額以下だ・・
それでも置時計で2万台はやはり高いので、メルシーと言って離れようとすると、
もう一度電卓を奪い取り、いくらなら買うんだ!みたいな事を言って数字を押せと言う・・・
圧倒されながらも、頭で計算して500ならと見せると、600でどうだ?とニッコリ笑顔で電卓を押してきた・・・
そういえば地球の歩き方に、パリでは値引き交渉次第で、半額になることも・・と書いてあった。
しかし値切っていないのにここまでとは・・
お金を渡すと、メルシーと更に笑顔で時計を受け取った。
本ではロンドンでは1割がやっとだ、ともかいてあったので、
人間性というか土地柄というか、とにかく駆け引きとはこういうことなんだと、手ごたえをつかんだ。
値切らなくても、帰るフリをすれば安くなるんだ。
その後もその調子で、古着、アンティークドレス、
アクセサリーなどお手頃な物を沢山見つけて、半額以下で買うことが出来た。
荷物を沢山持って帰ろうとしたら、フランス人ではない外国の婦人が、
4、5人の男に囲まれて笑いながら話していた。
何か変だなと歩きながらみていると、後ろの男がその婦人のカバンからカメラなどを盗んでいる・・・
話すフリをしながらスリをする集団だ!
これも本に書いてあった!
僕の隣にいた店主も見ていたので、指をさしゼスチャーで泥棒だから助けてあげようと言うと、
おまえが刺されるぞみたいな、ゼスチャーをされた・・・
ポリスにでも言わない限りこれだけの人の多さの中ではどうしょうもないよ・・・
そんな感じのことを言われた・・・
怖い国だ・・・
日本なら白昼に骨董市で見つけたら、どうにか大声を出せば逃げて行ったりするだろうに・・・やはり日本は治安が良い。
婦人がかわいそうに思いながらも、これもお国柄なのか・・と納得するしかない。
もう一度振り返り見ると、もう男達はいなかった・・・
次のターゲットを見つけに行ったのか・・
昨日といい、今日といいパリの光と影を見た。
西洋アンティークは西洋にしかないが、日本の文化はやはり素晴らしい。
何かの本でみたが、外に出ると日本の良さがわかるとあったが、その通りだ。
地下鉄にのり、沢山の荷物をホテルに一度置きに行く。
次に行くクリニャンクールはホテルから近いから便利だ。
初めてのパリ。
まだ二日目でこの濃い日々を過ごした。
教訓でもあり、どうしようもない文化の隔たりなど、憧れの花の都パリの裏側を見て、
ショックもあったけど、最初にこれだけの経験ができたことは、今後につながるだろう・・・
しんみりしながら、またホテルを飛び出す・・・
続く