僕が26歳の頃の話の続き・・・
ブリティッシュレイルに乗り込み、ロンドン郊外の沢山の緑の景色を眺める。
睡魔にさえ襲われなければいつまでも飽きることのない素敵な風景だ。
停車駅でもリスをみかけることも少なくない。
日本でもすごい遭遇をしたことがある。
長野骨董祭に出店したときの帰り、中央道を走っていたら、
高速道路の橋みたいな所を、野生のサルが渡っていた。
あまり売上も良くなく、猛暑の中、車のエアコンもつぶれ、疲れが倍増している気分が、人間と目が合い、
見られたーとあわてて橋を渡ったサルの姿をみて癒され、気分良く4時間ほどの道のりを帰れた。
その時の可愛いサルの顔は今でも鮮明に覚えている。
そして帰ってから友達などに高速を走ってたらサルと目が合って可愛かったよーと話すと、信じてもらえなかった・・・
そんな嘘を言っても、サルも誰も得をしないのに・・・
素敵な風景と想い出などを考えていながらも、列車は目的地に向かって走り続けている。
初めて行く場所だし、ロンドンからも離れていて、有名なフェアーではないので、出店者も知らないひとばかりだろう。
新たな出会いがあるに違いない。そう考えてワクワクしているとすぐに時間が経ち、いよいよ到着だ。
駅を降りると、大きい駅のわりに何もなく、緑で囲まれた丘のような公園がある。
シティホールのような建物は目に入らない。
これは誰かにたずねないとわからない。
イギリスでは道を尋ねるときのマナーで、女性には聞いてはいけないルールがある。
昼過ぎの時間帯もあるのか、少ない通行人のほとんどが女性しかいない・・・
これはタブーをおかすしかないかも・・・と考えていると、ジョギングをしている男性が走って来た。
エクスキューズミー?
すると足は動かしながらも、立ち止まってくれた。
そして親切に、シティーホールならあの丘を越えた先にあるよ。
聞いてほんとに良かった。15分はかかるそうなので、反対方向に行っていれば大変なことになっていた。
朝のドタバタ劇を考えてみれば、よくぞここまで辿り着いたと、嬉しくなる。
シティーホールが見えてきた。
入り口には入場券を販売している女性がいる。
入場料£5。約千円だ。
日本のアンティークフェアーは入場は無料だが、出店料が高い。
イギリスでは有料だが、出店料は安く、商品も安くうれるし、業者も集まりやすい。
どちらが良いかは微妙だが、有料だと冷やかしのお客様は確実に減るだろう。
そしてお金を払ってでも、何かお宝を見つけようと、遠くからでも来るお客もいる。
僕のように。
中に入るとロンドン市内のフェアーのような、ビクトリアロイヤルホールやロイヤルアルバートホールのような、
豪華な建築ではなく、体育館のような素朴なつくりだ。
しかしすごく人が多くて、アンティークへの熱意が伝わってくる。
僕も気合を入れてまわり始まると、可愛いお店が目に入る。お人形屋さんだ。
近づいてみると、ビスクドールがずらりと並んでいると思ったのは、
セルロイドやプラスティックドールなどの、お手ごろなお人形達だった。
高価なフランス人形のように一人一人スタンドに立てられ、お洋服も可愛く綺麗に着せてもらっている。
眺めていると、優しそうな店主が笑顔で、CAN I HELP YOU?
みんな可愛い子ばかりですねと言うと、もちろん、全て私の子供よ。
気が合いそうな人だ、と思いながら一人だけ座っている大きなお人形が目に入る。
顔がテカテカに光っていて可愛い顔をしている。
手に取らせてもらうと、ホッペにシミのようなものがあり、それがエクボのように見えてとても可愛い。
これは拭いても取れないのですか?
この子のチャームポイントよ。
ますます、好きなタイプの人だし同じことを考えていたので嬉しい。
どこのメーカーなんですか?
ドイツ製のハードセルロイドで、マークはK・Hよ。
価格も£200とお手頃だし、頂きますと伝えると、どこからきたのか?と聞いてくる。
ジャパンと言うと、あなたはジャパンに行ってしまうのねーと
エクボあたりにキスをして、僕と店をほったらかしにして、隣の店に行った。
隣の店はコスチュームアクセサリーのお店だ。
するとピンクのお洋服に、良く似合うブローチを見つけて胸につけて戻ってきた。
この子のお嫁入り道具よ、みたいなことを言って優しく包み、
お金を払うと気をつけて連れて帰ってね、と念を押された。
なんどもテイクケアー、テイクケアー・・・
素敵な方だ。またお会いする約束をし、名刺交換もして別れた。
その方は後に、僕の店にとって大きな影響を与える出会いだった。
やはり新たな場所に出向くと良いことがある。
エクボの可愛いお人形を抱きかかえ、また素敵な出会いを期待してホールを歩き出す。
続く