貴方との出会いは2年前のロンドン。
キングスロードにある約200年前の素敵なアーケードで。
南アフリカ出身の貴方のオーナーとの初めての出会い。
そのアーケードには、建物、生き物、全てに優しさのオーラが溢れ出ている。
そこで乳白色の素晴らしいパールの輝きと、繊細な金細工に惹かれ、貴方に一目惚れしました。
19世紀に、貴方の一部分であるパールはペルシャ湾で、カタール人の手によって、貝の中からこの世に出て来ました。
1920年代に養殖真珠が、この世に誕生するまでは、王侯貴族の宝飾品の製作の為に、ペルシャ湾にバイヤーがヨーロッパから集まりました。
そこで見初められて、貴方の一部分はフランスへと旅立ち、とても素敵なジュエリーの宝飾の主人公になりました。
とても柔らかく曲がるゴールドの細工。
可憐な輝きを放つダイアモンド。
そしていつまでも輝きを失わない、天然の真珠の輝き。
フランス語でパールをペルルと呼ぶ。
僕が昔、初めて出会ったビスクドールは、透き通るような真っ白な肌で、真珠のようだった。
その子にペルルと言う名前を付けて、古着屋の看板娘にした。
それから、ペルルへの縁が深くなった。
貴方は、その縁の中でもひときわ輝きを放つ。
全オーナーは男性だけど、黒い肌の手の中に貴方が横たわると、白さが蛍光色のように輝いた。
その男性の貴方への愛情を感じ取った瞬間、僕の心の中に貴方の生きてきた情景が浮かんだ。
フランスの古城で、貴婦人に大切にされてきて、様々な社交界、サロンでのお茶会、そして公的な場所、ウェディング。
幾度となく、貴方はレディの胸で輝きを放ち、人々を魅了した。
そして時代が変わり、ドーバー海峡を渡り、ロンドンへ。
ロンドンでも、石畳みの上を、馬車に揺られた貴婦人の胸元で揺れながら、曇りの多い憂鬱な気分を晴らしてくれた。
そして今はロンドンの素敵なアーケードで、南アフリカの男性と、日本人の男に見つめられている。
ココは何処?
異国の地から来た二人の男性に惚れられて、困っている貴方に見えた。
今まで出会ったペルルのジュエリーの中で、1番の高嶺の花の貴方に、躊躇していた僕は、困った貴方の表情を感じて、決断した。
その瞬間、貴方は安堵からか、また遠い日本への旅を喜んだのか、揺れながら輝いた気がした。
南アフリカの男性は、多く言葉を交わさなくても、この必然の出会いを納得していた。
初めて出会ったのに、今晩のディナーを是非家族と一緒にと。
嬉しい誘いだけど、僕は一刻も早く、ホテルに戻り、貴方との至福の時間を楽しみたい。
日本への旅立ち、その時間だけ許された二人だけの時間。
前のオーナーは8年前にオークションで出会い、貴方をコレクションをしていたらしい。
男性から男性へと受け継がれて来た貴方はやはり、女性ですね。
真っ白な肌もつ乳白色の美女。
藤田嗣治さんの乳白色の女性のような貴方は、日本に来るのは必然だった。
次に貴方が演出する女性の胸元へと旅立つまでは、僕が大切にします。
ペルシャ、フランス、ロンドン、日本。
日本が最終目的地ではない気がしますね。
また何十年か100年かわからないけど、また外国へと旅立つ気がするのです。
100年以上も前に生まれた、貴方との奇跡の出会いに感謝して、また新たなペルルとの出会いを求めて僕も旅立ちます。
25年前に出会ったドールのペルル。
そして様々なペルルのジュエリー達。
高嶺の花の貴方。
僕のジャケットの左胸にいつもいる、ホースシューズのペルル。
次に出会う素敵なペルルとの出会いに夢を馳せて…
2014年10月12日 坂井陽一
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